痔ろうとは
痔ろうは、肛門周辺の皮膚と直腸が「瘻管(ろうかん)」という長細い穴で繋がってしまう状態であり、「穴痔」とも呼ばれています。 肛門の皮膚と粘膜の境目である歯状線部分には小さなくぼみがあり、これを肛門陰窩(こうもんいんか)と呼びます。本来は肛門陰窩に便が詰まることはありませんが、下痢などによって大腸菌が侵入してしまうと、肛門腺に炎症を起こすことがあり、これが瘻管の原因となります。
また、免疫力が低下している状態で肛門陰窩の炎症を起こして化膿すると、「肛門周囲膿瘍」になってしまうこともあります。肛門周囲膿瘍は自然に治ることもありますが、膿が皮膚にトンネル状の瘻管を作ってしまい、痔ろうになると自然治癒することはなくなります。
痔ろうの原因
肛門と直腸の境目にある8〜12個ほどのポケットを肛門陰窩(こうもんいんか)と言い、ここに便や便汁が入って炎症を起こし、化膿して膿が溜まると肛門周囲膿腫となります。さらに、膿が広がって肛門の皮膚にまで達すると痔ろうになります。
肛門周囲膿瘍とは
肛門内の肛門陰窩というくぼみに大腸菌などの菌が入り込んで炎症を起こし、化膿して膿が溜まっている状態であり、痔ろうの手前の状態とも言えます。
痛みや腫れ、高熱などが主な症状として挙げられます。 初期の軽い状態であれば抗菌薬を内服して治まることがありますが、多くは痔ろうへと進行してしまい、手術が必要となります。そのため、肛門周囲膿瘍を発症している場合は、早急に膿を取り出すための切開手術を行う必要があります。
痔ろうのタイプ
痔ろうは次の型にそれぞれ分類されます。
Ⅰ型(皮下痔ろう)
最も軽度の痔ろうであり、裂肛痔ろうと言われ、皮膚の浅い部分にできた状態です。
ⅡL型(低位筋間痔ろう)
肛門を締める働きをする肛門括約筋の間を抜けて皮膚に達する痔ろうであり、痔ろうと診断されるうちの約70%がこのタイプです。
ⅡH型(高位筋間痔ろう)
肛門括約筋の間を上に向かって抜けていくタイプの痔ろうであり、診断されるうちの約10%がこのタイプです。切開し膿を排出することで治るケースが多いです。
Ⅲ型(坐骨直腸窩痔ろう)
肛門括約筋の奥深くまで膿が溜まってしまう深く複雑なタイプの痔ろうであり、入院治療が必要となることが多いです。
診断されるうちの約10%がこのタイプです。
Ⅳ型(骨盤直腸窩痔ろう)
奥深くまで膿が達してしまう最も複雑なタイプの痔ろうであり、診断されるうちの約2〜3%がこのタイプです。
治療方法
基本的に痔ろうは手術が必要であり、自然に治ることはありません。
切開解放法(単純痔ろうⅠ~ⅡL型)
切開解放法は根治治療で、肛門括約筋を一部切開してトンネル状となったろう管を開放し、切開した部分を自然治癒させていきます。
※手術が必要な場合は連携する高度医療機関を紹介させていただきます。
Seton(シートン)法(ⅡL・H、Ⅲ)
トンネル状となったろう管に輪ゴムを通し、ゴムの力で瘻管を肛門の外まで引っ張りながら切っていくことで開放させる方法です。
完治までにある程度の時間を要します。
※手術が必要な場合は連携する高度医療機関を紹介させていただきます。
肛門括約筋温存術
括約筋を切断せずに、トンネル状のろう管だけをくり抜く方法です。比較的再発率が高いという報告があるため、事前の診察でじっくりと検討した上で必要と判断した場合のみ行います。
※手術が必要な場合は連携する高度医療機関を紹介させていただきます。
合併症について
痔ろうの手術で最も怖い合併症が、出血と痛みです。 また、長期間続く合併症としては肛門の変形と便失禁が挙げられます。ただし、手術前の正確な診断の上で最も適した手術方法が行われていれば、過度に肛門括約筋の切除や侵襲をかけることにはなりません。
複雑痔ろうの術後の、便失禁の発症率は0~54%というデータがあるため、この場合は入院治療が必要となります。 入院が必要な場合は、連携している高度医療機関をご紹介いたします。
痔ろうを放置すると
痔ろうを放置すると、膿が溜まって破裂して外に出てということを長期間繰り返してしまうと、痔ろうが枝分かれして複雑な痔ろうに進行してしまいます。
そこからさらに悪化していくと、がんになってしまうことも稀にあります。