ピロリ菌

ピロリ菌ってなに?

正式名称をヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)といいます。 ウレアーゼと言う特有の酵素を使って胃酸を中和することで、酸の強い過酷な胃内部の環境でも生息でき、胃がんを引き起こす原因となります。
世界中では半数以上の方が感染しており、日本でも40歳以上では約7割、感染者は3,500万人いるとされています。ただ、ピロリ菌感染者の多くが健診などを受けなければ気が付くことはなく、自覚症状がないまま暮らすことができます。

どうしてピロリ菌に
感染するの?

ピロリ菌に感染するケースの大半は次の2つです。

  1. 幼い頃に井戸水のような非浄水の水を口に含んで感染した
  2. 両親など近親者にピロリ感染があり、幼いころに離乳食を口移することで感染した

ピロリ菌は5~6歳までの幼少期に感染しやすいため、幼少期の生活に注意することがピロリ菌の感染を防ぐために大切です。 日本では40歳以上の約7割がピロリ菌に感染していますが、これは以前の日本では上下水道が整備されていなかったためです。
近年では衛生環境が以前と比べて改善しており、日本のピロリ菌感染率は世界的にみても減少傾向です。成人になってからの新規感染は比較的少なく、食べ物や接吻による感染もほとんどありません。

ピロリ菌はどんな悪さをするの?どんな症状が出るの?

ピロリ菌は、慢性的に胃の粘膜に炎症を起こし、胃の粘膜が薄くなっていく「萎縮性胃炎」や「慢性胃炎」を引き起こします。また、年齢を重ねると胃の粘膜は老化現象を起こすことから、胃酸の分泌量は減っていくため、消化不良や胃の不快感といった症状が現れるようになります。
一度ピロリ菌に感染すると、加齢とともに慢性的に胃粘膜の萎縮が進んでいき、胃粘膜に強い炎症が出ることで、胃がんのリスクが高くなります。 症状のほとんどは胃痛で、食欲不振や嘔吐、腹痛、お腹の張りといった症状は稀に起こります。

ピロリ菌に感染しているのかを調べるには?

幼少期に感染した場合、自覚症状が出ないことが多いですが、ピロリ菌は胃がんだけでなく、胃潰瘍や十二指腸炎、十二指腸潰瘍、鉄欠乏性貧血、胃炎などの原因にもなります。
ピロリ菌感染の有無を調べる検査は、胃カメラを使用する方法と使用しない方法の2つあります。

胃カメラを使用する検査方法

鏡検法

胃粘膜の組織標本に特殊な染色をして、顕微鏡でピロリ菌を直接見て探します。

培養法

採取した胃粘膜を5~7日かけて培養して判定します。

迅速ウレアーゼ試験

内視鏡を用いて組織の一部を採取し、ピロリ菌が持つ、尿素を分解するウレアーゼという酵素の活性を利用して調べます。

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胃カメラを使用しない検査方法

血清ピロリ菌抗体検査

人間は菌に感染すると、体内に抗体を作り出します。 その抗体を作り出す機能を利用し、ピロリ菌に対する抗体が体内にあるかを確認することで感染の有無を調べます。

便中ピロリ菌抗原法

便中のピロリ菌の抗原の有無を調べる方法です。現時点で感染しているかを確認できます。体への負担が少ないことから、小児でも検査を受けられます。

尿素呼気試験

特殊な尿素製剤である試験薬を服用し、服用前後の呼気を集めて診断します。 ピロリ菌の持つウレアーゼが尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解する際に、発生した炭酸ガスが呼気中にどの程度含まれているかにより判定することができます。

当院では主に、便検査と採血にて確認をしています。ピロリ菌の検査は1つでは偽陰性の場合があるので、疑わしい場合は複数の検査を実施します。

ピロリ菌の治療

ピロリ菌の治療では、抗生物質を2つ含めた3種類のお薬を1日2回、1週間続けて服用していただきます。ピロリ菌感染者は、ピロリ菌に関連する胃がんを中心とした様々な疾患の予防や治療のためにも、除菌療法を受けることが日本ヘリコバクター学会のガイドラインにて推奨されています。当院で処方するお薬は最新のものであり、1回目で除菌できる方は約90%前後です。うまく除菌できなかった場合は、お薬の内容を変更した上で2回目の除菌療法を行います。稀にですが、3回目、4回目とお薬を内服しないと除菌ができない方もいらっしゃり、その場合は3回目、4回目の除菌療法を行います。
除菌薬を内服している1週間の間はアルコールの摂取を控え、治療に専念することで除菌できる確率が高くなります。患者様自身の判断でお薬の内服を中止すると、除菌に失敗してピロリ菌が治療薬に耐性を持ってしまうため注意が必要です。
ピロリ菌は放置せずに対処することで、将来的に胃がんになるリスクを減らすことができます。胃カメラとバリウム検査を受けた方は、ピロリ菌の感染に関する検査が保険適用の対象となります。これらの検査を受けた方で、ピロリ菌に関して不安がある方はお気軽に当院へご相談ください。

ピロリ菌に感染すると、
胃の中はどうなっていくの?

ピロリ菌に感染すると赤く長い血管の模様が透けて見えるまで胃の粘膜が薄くなることがあります。 ピロリ菌に感染した場合は胃カメラにて胃を直接観察することで、胃粘膜の萎縮の有無や萎縮の度合いを確認します。 ピロリ菌に感染よる胃の萎縮がさらに進行していくと、「腸上皮化生」という胃の粘膜が腸の粘膜に置き換わる状態になってしまいます。
「腸上皮化生」はピロリ菌も自然消滅するほど胃が荒れた状態のため、ピロリ菌の検査でも陰性と判定されることがあります。しかし、「腸上皮化生」は最も胃がんのリスクが高い状態であるため、判定結果に注意が必要となります。

ピロリ菌の治療が終わったら、胃カメラは卒業できるの?

ピロリ菌の治療が終わっても胃カメラ検査は毎年受けるようにしてください。ピロリ菌が除去できれば胃がんのリスクは半分程度に減少し、ピロリ菌再発も低くなります。 しかし、除菌に成功しても非感染者と比較するとリスクの高い状態が続きます。
「ピロリ菌が消えたから今後胃がんにはならない」と考え、その後の定期的な胃カメラ検査を受けなくなる方もいらっしゃいます。除菌の成功により胃がんの発生リスクは低下しますが、0にはなりません。 ピロリ菌の除菌が成功すると胃炎や胃粘膜の萎縮は改善される傾向にありますが、ピロリ菌を除去した時の年齢が高いほど、胃粘膜の萎縮が残ることが多いです。
胃がんの発生は、ピロリ菌が直接的な原因ではなく、ピロリ菌によって引き起こされる胃粘膜の萎縮と遺伝子変異の度合いが原因です。そのためピロリ菌を除去された方こそ、定期的に胃カメラ検査を受けて胃の状態を観察し、胃がんの早期発見に努めることをお勧めします。 ピロリ菌を除去して胃がんリスクがなくなったと誤解し、除菌以降の胃カメラ検査を受けないことはとても危険なことです。
近年は、医療技術の発展により、ピロリ菌の除菌治療や内視鏡検査を受けることによって、胃がんリスクの低減や早期発見が可能になりました。除菌治療と内視鏡検査を活用して胃がんへの対策を心掛けていきましょう。

ピロリ菌に感染しないように
予防はできるの?

具体的な予防方法は明確には確立されていません。しかし、口から感染することは人体実験で確認されていますので、親から子供への食べ物の口移しには注意しましょう。
また、発展途上国への旅行など、衛生環境が整っていない場所では水や食べ物に注意し、なるべく口にしないことで感染リスクも下げられます。 日本の現在の衛生環境下では、大人が水道水からピロリ菌の除菌後に再感染する可能性は低いため、深刻に心配することはありません。

ピロリ菌に関するよくある質問

健康診断でピロリ菌陽性と診断されたのですが、どうすれば良いでしょうか?

ピロリ菌陽性と判定された場合は、まず胃の状態の確認が必要です。 ピロリ菌陽性の判定が出て、胃カメラを実施していない場合は、胃カメラ検査をまず行い、胃の炎症度合いや胃がんの有無の確認を行います。胃バリウム検査のみ済んでいる場合も、胃がんの有無の確認のために胃カメラ検査の実施をお勧めしています。 既に胃カメラ検査が済んでいる場合は、胃の炎症度合いや胃がんの有無の確認も済んでいるため、除菌療法を始めます。

ピロリ菌の除菌治療で副作用はありますか?

除菌療法の代表的な副作用として、①内服中に味覚が少し変わる、②軟便・下痢、③肝機能障害、④お薬による皮膚アレルギーなどが挙げられます。症状が軽い場合は、患者様自身の判断でお薬の回数を減らしたり中止したりせずに1週間は内服を続けてください。症状がひどい場合は、医師へご相談ください。

除菌療法が終わった後に生じる問題点は何かありますか?

ピロリ菌の除菌が成功した方のうち、稀にピロリ菌の除菌によって低下した胃酸の分泌が、正常に戻ったことによる一時的な「逆流性食道炎」が起こると報告されています。 逆流性食道炎は良性の病気であり、一方ピロリ菌の未除菌、未治療胃がんのリスクを増加させるため、原則はピロリ菌の治療を強くお勧めします。

両親がピロリ菌感染の既往歴がある場合、感染時の年齢を確認した方が良いでしょうか?

ご両親のどちらかでもピロリ菌に感染した経験があると、口移しなどでお子様も感染している可能性があります。しかし、ピロリ菌の治療では抗生物質を2種類、1週間に渡って服用する必要があり、胃カメラ検査もピロリ菌に感染しているか確認の為に必須ですので、18歳以上から検査することをお勧めしています。

血液検査ではピロリ菌陰性だったものの、内視鏡ウレアーゼ迅速検査や便中ピロリ菌検査では陽性と診断されました。こういったことは起こりますか?

よくいただく質問で、他の感染症採血でも同様の例がみられます。 血液抗体検査は、ピロリ菌に稀に感染していても患者様自身の抗体がうまく産生されなかった場合は、ピロリ菌抗体が陰性になる場合があります。 しかし、内視鏡中のウレアーゼ迅速検査や便中ピロリ菌検査は、ピロリ菌に現状感染しているかどうかを調べる検査のため、こちらの検査で陽性だった場合は感染していると判断します。

以前、ピロリ菌の除菌治療に成功したと言われましたが、健康診断で血清ピロリ菌抗体が陽性と診断されました。どういう理由でしょうか?

ピロリ菌の除菌が成功しても、一度ピロリ菌に感染すると、しばらくの間は抗体価が体内で産出されるため、陽性判定となることがあります。そのため、検査を受けても判断基準とはなりません。

ピロリ菌が除菌できたとしても、再感染することはありますか?

再感染率は通常数%程度で、ほとんど起こりません。 再感染の多い例として、ピロリ菌を完全には除菌ができておらず、一時的に菌量が減った段階で陰性の判定を受け、菌量が増加してきた段階で検査を受けて陽性判定となるケースがあります。

ピロリ菌除菌治療を2回受けたのですが除菌できませんでした。3回目も保険適用内で受けられますか?

ピロリ菌の抗生物質への耐性化が進んでいることもあり、2回目の除菌治療でも失敗に終わることはあります。 当院でも3回目の除菌治療は実施していますが、自費診療となり費用は20,000円ほどかかります。まずは一度、医師へご相談ください。

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